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最高裁判所第一小法廷 昭和29年(さ)2号 判決 1954年7月08日

主文

原判決が本件につき刑法二五条二項を適用した部分を破棄する。

理由

検事総長の非常上告理由について。

原審裁判所である神戸地方裁判所尼崎支部は、昭和二九年三月五日本件被告人が(一)同二八年五月二五、六日頃、覚せい剤を不法に譲渡し、(二)同年九月二九日覚せい剤を不法に所持し、(三)同年同月一五日賍物の牙保を為した犯罪事実を認定した上、相当法条並びに刑法二五条二項等を適用して、被告人を懲役一年二月及び罰金一千円に処し且つ、右懲役及び罰金につき三年間その執行を猶予する旨の判決を言渡したこと、並びに、同判決において被告人は昭和二七年二月二二日同裁判所支部で覚せい剤取締法違反で懲役八月但し三年間執行猶予の判決を受け、該判決は同年三月八日確定しているが、昭和二七年政令一一八号により懲役六月執行猶予二年三月に減軽及び短縮されたものである旨を認定判示しその認定が誤りでないこと及び、右原判決は、昭和二九年三月二〇日確定したものであることは、いずれも、所論のごとく一件記録に徴し明白である。

そして、刑法二五条二項によれば、前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を猶予された者が、一年以下の懲役又は禁錮の言渡を受け、情状特に憫諒すべきものあるときは、裁判確定の日から一年以上五年以下の期間再びその執行を猶予することができるものであるが、一年以上の懲役若しくは禁錮又は罰金の言渡を受けたときは、その執行を猶予することはできないものである。しかるに、原判決が前示のごとき執行猶予中の前科あることを認め且つ被告人を懲役一年二月及び罰金一千円に処しながら、刑法二五条二項を適用し右懲役罰金の双方の執行を猶予する旨の判決を言渡したことは、明らかに右刑法の条項に違反したものであって破棄を免れないものといわなければならない。但し、原判決は、被告人のため不利益でないから、刑訴四五八条一号本文の規定に従いその違反した部分のみを破棄すべきものとし、裁判官の全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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